リアルタイムな適応反応
人は常に様々な刺激を処理しています。色や形など意識している情報もありますが、殆どの情報は無意識に処理されています。
視覚刺激に対する無意識な反応といば、リーの動く壁実験が有名ですが、人は常に外的刺激に対して無意識に情報をインプットし、リアルタイムに反応を返しています。
動く壁実験を知った時、僕自身 面白い!と思ったのと同時に口腔内や聴覚でも同様に刺激に対する無意識の調整は起こっているのだろうかと疑問に思いました。
実際に口腔研修を受けられた方は「舌の得意な運動方向の評価②」で体感されたと思いますが、口腔の筋も刺激に対して無意識に様々な反応を返しています。
そもそも口腔内はとても繊細です。開口し、目を閉じた状態でも口腔内に何か入ってきたら皆さんも気付くと思います(試してみると面白いです)。
また咀嚼を考えてみると、口腔という視覚的に確認できない空間のなかで、殆ど意識しなくても食物の形状の変化に合わせて咀嚼、咽頭への送り込み、嚥下という作業を繰り返すことができます。
以下の研究によると、吸啜運動も口腔の感覚情報によって閉口筋や舌骨上筋群の筋活動が反射性に調整されているようです。
乳汁量 の多寡 に応 じて,ま た局所麻酔 によ り吸啜(様)運 動 中の筋活動が変化 した ことか ら,吸啜 運動が 口腔内感覚情報 によって反射性 に調節 され てい ることが示唆 された。 とくに,吸啜 時に強 く活動す る舌骨上 筋群 に対 して,口 蓋 ならびに口唇からの感覚情報が促 通性 に筋活動 を調節 している と考 え られた。
(吸啜運動への口腔感覚による反射性調節:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspd1963/34/4/34_911/_pdf/-char/ja)
食べる、話すといった活動をみるときには運動面の方に目がいきやすいですが、口腔においても感覚入力という視点の評価も大切ですね。
感覚入力というのも筋の機能であると考えると、筋緊張は高すぎても、低すぎても感覚情報はインプットされにくいと考えられます。
舌や口唇、口蓋へふれたさいに、筋緊張が高いのか低いのかは瞬時に分かるように経験を積む必要があります。
また、ふれた時にどのような反応が返ってくるかも大切な評価になります(舌の得意な運動方向の評価③)。
刺激と反応
食物が口腔へ近づいてきたとき、口唇が開いて食物を受け入れてくれる方もいれば、無意識にスプーンを噛んでしまう方、舌が後方へ引きこんでしまう方と反応パターンは様々です。
刺激に対する自由な反応を自分で選択できたり、食べるという目的に比較的合った反応パターンを出せるようにサポートしようと思ったとき、出来ることはいろいろあります。
① 刺激自体の性質を変える(食物を変える、食具を変える)
② 自分に入ってくる刺激量、時間を調整(眼鏡、補聴器など)
③ 刺激に対する反応パターンを広げる など
①や②で有する能力を発揮しやすい条件を評価しつつ、実際に口腔内へふれながら反応の自由度をひろげていきます。
その際まずはその方の無意識にでてしまう得意な反応パターンを顕在化し、ふれて反応を見ながら少しずつその方の反応の自由度を広げていきます。
食物が口腔内へ入ってきたときに、無意識に丸のみしようとしてしまうのか、咀嚼運動が始まるのか。これは指で舌へふれるときの反応パターンを評価すると、その方が無意識に丸のみしやすいか見えてきます。
たとえば食物が口腔へ近づいてきたときや、実際に舌に食物がふれた時に無意識に舌の位置が口腔後方へ引きこまれるような反応がでてしまう方は、丸のみしやすいのではと考えます。
無意識に丸のみをしようとしてしまう方に対し、「しっかり噛んで」という声かけは効果的でしょうか。
舌本来の食物を処理する能力を舌へのタッチを通して思い出してもらい、食物が入ってきたら無意識に咀嚼できるようなサポートをしたいと考え日々探求しています。
謎多き口腔
舌マニアな歯科の先生方と情報交換する中で、口腔内の知覚、空間認識能力、そしてそれに伴う全身への影響は想像以上に素晴らしい予感がしています。
口腔へのアプローチを行ったあとに体感する呼吸、歩行、体幹回旋などの可動域などの様々な変化。
リアルタイムに情報を集め、良くも悪くもリアルタイムに全身を調整し続けているかもしれない口腔。
今後この分野はご縁を頂いたマニアックな先生方と探求していきたい領域です。
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