はじめに
僕自身、言語聴覚士として口腔の勉強を行っていましたが、なかなか訓練が上手くいかないなと悩みました。
それから理学療法士さんの勉強会などに参加し、身体全体から口腔への影響を見ていくというふうに自然と考え方が変わったように思います。
そういった経験で得たものをもって、改めて言語聴覚士として口腔と向き合ってみると、出来ることが沢山あることに気付くことができました。
評価すべきこと、アプローチするコツ。言語聴覚士として働き始めたとき、身体からアプローチしようと思ったときには気付けなかった口腔のこと。
口腔機能の変化をその場で感じるようになってから、口腔機能が変わると姿勢、歩行など口腔以外の機能も変化することに気付きました。
おもしろい!と思って、どうしたら効率良くその方が持っている口腔機能を引きだせるか工夫をはじめました。
効率よく口腔機能をひきだしていくというのは在院日数の減少や、月に1度の訪問という環境下ではとても大切になります。
いろんな工夫があるのですが、そのうちの一つが舌の位置と重心の関係の応用。これは日ごろの臨床においても良く意識しており、実際の口腔機能の評価や訓練にも応用しています。
まずは口腔機能の評価が大切ですが、舌と全身との関係をみていくと大変おもしろい気付きが得られます。
前置きが長くなりましたが、今回は姿勢制御と舌の位置についてのお話。関連する論文が見つかりしだい追加していきます。
論文紹介①
Effect of tongue position on postural stability during quiet standing in healthy young males.(https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.3109/08990220.2015.1043120?journalCode=ismr20)
対象:健康な男性被験者166人(平均年齢31.56±8.51歳および身長170.86±7.26cm)
方法:上顎切歯に対して舌が位置している時とそうでない時の2つの条件で、不安定な足場に閉眼立位姿勢をとり、COG速度を比較。
結果:上顎切歯に舌が位置している時の方がCOG加速度は優位に減少した。上顎切歯に対して舌が位置していることは、健常若年男性の姿勢安定性を高めることができる。
論文紹介②
「膝の等速性運動課題に対する舌位の重大な影響」
The acute effect of the tongue position in the mouth on knee isokinetic test performance: a highly surprising pilot study(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3940506/)
対象:18人の健康な男性被験者(26.6±4.5歳、体重74.4±7.9kg、身長175.0±7.7 cm)
方法:3つの異なる舌位(口蓋、口腔低、中間位)で膝の等速運動試験を受けた。
結果:舌位UP(口蓋接地)における膝屈曲ピークトルクの約30%の有意な増加を明らかにした。
私見
安静時の舌位は身体のバランスや一見関係ないように思える膝の動きにも影響を与えている可能性があるようです。
研究では上顎へ舌がふれている時の方がパフォーマンスは高いと報告されていますが、皆さん全員が上顎切歯に舌がふれているとは限りません。自分の舌は安静時にどこにあるでしょうか。
安静時の舌のポジション、そして人がバランスをとるときの舌の戦略を見てみると、おもしろい気付きがあります。
重心移動に伴って舌も移動する場合もあれば、ずっと口腔後方へ舌が引き込んだまま緊張している場合や、他にも様々な方がいらっしゃいました。
人は何かをしようと思ったときに、心と一緒に重心も移動していきます。その中で日ごろは見えない口腔内が、どの様にその方のバランス戦略に組み込まれているか評価してみると、なにか気付きに繋がるかもしれません。
また上顎にピタッと張り付く(舌中央以外)という舌の安静時のポジションは過去の経験やその時の心身の状態の結果であると考えています。
随意的に舌の位置を自分でコントロールしても良いのですが、本人が意識して舌の位置を整えていても、意識が他にそれたら舌の位置は変化するかもしれません(それが悪いわけではありません)。
理想的な舌の安静時のポジションはあると思いますが、それはゴールではありません。舌はその時の心身の状態によっても楽なポジションへ移動するでしょうし、食べる・話すといった活動時には口腔内をダイナミックに動く必要があります。
安静時の舌位、そしてバランス戦略における舌の役割、さらに食べる話すときの舌。その方の目的に合わせて自由に適応していく舌本来の機能を一緒にもっと学んでいきましょう。
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