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舌と重心

より効率のよいトレーニングを目指して

· 言語聴覚士,舌,構音障害,摂食嚥下障害,歯科

投票ありがとうございました。

 先日、Twitter(@taberuhanasu)で次のブログテーマについてアンケートを行ったところ、僅差で「舌と重心」というテーマに一番多く投票を頂きました。

 ちなみに2番目に投票が多かったのは「赤ちゃん~高齢者 様々なかたの舌をみて感じること」でした。投票頂いた皆さんありがとうございます。

舌の得意な運動方向

 口腔研修(S-R touch Oral)やこれまでのブログ記事でお伝えしてきた「舌の得意な運動方向と苦手な運動方向」。まずはここをもう少し掘り下げていきたいと思います。

 ちょっとマニアックな内容になると思います。

 以前の記事で、最低3つの条件下において「舌の得意な運動方向」を評価すると書きました(発語失行と舌の関係:http://site-1363555-8827-3743.strikingly.com/blog/38858ec165c)。

 復習として今回も書いておきます。

3つの条件下における舌の評価

① 開口時の舌の運動方向

② 舌へ触れていく際の舌の運動方向

③ 舌へ触れた時の舌の運動方向

 以上の3つになります。ここから分かるのは刺激に対する無意識の反応パターン(戦略)です。

 下の写真は舌へふれる前から、その後ふれて舌の可動域を広げていくときの簡単な流れになります。

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 例えば②の評価(写真では「触れる前の反応」の部分です)では、指が口腔へ近づいていくときの舌などの反応を評価していきます。

 この時に「舌が後方へ引きこむ」場合、食物を取り込むときにも同じようなパターンなのか気になります。もしかしたら日ごろの一口量も関係しているかもしれません。

 もしくは③の評価(触れて反応をみる)において、指が舌にふれた瞬間、口腔の奥へ引きこんでいく反応パターンの場合、食物が舌にふれたときも同じ反応だったら咀嚼にとっては不利な(殆ど噛まずに食べてる?)可能性があります。

 これらの反応パターンは健常者であってもほんとに異なります。

 たとえば②の評価の時に、指が近づくにつれて開口量が増える方もいれば、(無意識に)噛みつこうとされる方もいます。舌が奥に引き込む方もいれば、指に近づいてくる方もいます。

舌と重心

 舌は複数の筋が重なりあった複合体です。舌の位置をコントロールする外舌筋、舌の形をコントロールする内舌筋とに分けられます。

 舌の可動域トレーニングを考えた場合、舌の楽に動ける運動範囲を広げたい場合は、主に外舌筋のトレーニングと考えるとわかりやすいです。

*口腔研修②では内舌筋の機能も意識した外舌筋の可動域トレーニングも行います。

 さて③舌にふれた時の反応を評価したあとは、そのまま舌を様々な運動方向(前後、左右、上下)へ誘導(リード)していきます。

 この際にポイントとなるのが「発語失行と舌の関係」の記事で書きました「舌を押さない、引っ張らない、頑張らせない」の3つのポイントです(参照記事:http://site-1363555-8827-3743.strikingly.com/blog/38858ec165c

 このあたりは今後、動画などでもお伝えできればと考えています。殆どの方が無意識に舌を下方へ押してしまいます。

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 舌へふれて自由に動ける各運動方向(前後、左右、上下)における舌の可動域を広げていきたいのですが、以前からOral①でお伝えしていた、座位で舌の徒手的誘導を行いながら行う可動域トレーニングより、重心の位置と舌の関係を利用した、より動的なトレーニングの方が効率がよいことが分かり、2019年6月からOral①の研修の実技にいれました。

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 立ち上がり、歩行などの時に、舌はどのように動いているのでしょうか。評価してみると人によって全然違うことが見えてきます。

 たとえば立位で楽に口を開け、身体を前後、左右へゆっくり誘導していきます。この時の人による舌の反応の違いをみると舌と重心の面白い関係がわかります。

・重心の移動方向に舌が一緒に動く

・舌は殆ど動かない

・重心の移動方向に関係なく舌が奥へ引き込む

 移動方向に関係なく舌が奥へ引きこまれる場合、おそらく喋りにくさ、声の響きにくさといった悩みはあるんじゃないかなと思います。それ以外にも肩こりとかいろいろありそうですが。

 口腔機能が大きく関わるトランペットなどの楽器演奏への影響も大きいでしょう。特に声優さんなど咽頭共鳴腔の広さを大切にされる方の場合、無意識に舌が後方や後上方に引き込まれては咽頭共鳴腔が意図せず狭くなるため困ります。

 他にも様々な舌の反応パターンが人によって見られます。

 特に舌の得意な運動方向が「後方」(口腔の奥へ引き込む方向)の場合、研修でお伝えしている舌の誘導方法であっても、舌を前方(苦手な運動方向)へ徒手的に誘導するのに時間がかかる場合があります。

 このようなケースでは立位で前後の足のステップ運動と舌の前後運動を一緒に誘導していくと、効率よく舌の可動域の変化を感じられます。

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*Bridge 小松さんの動かせる骨モデルを使わさせて頂きました。https://note.mu/bridgeplusaichi/n/n84c14a8d7b7f

 上の写真は座位での重心前方誘導と舌の前方への誘導のイメージです。

例えば

① 舌のみを選択的に前方へ誘導

② 前方への荷重(下肢や臀部)を誘導しながら同時に舌も前方へ誘導

③ 舌は挺舌したまま、重心のみ最初の位置へ誘導し分離を図る

④ 重心は固定したまま舌のみ口腔内へ誘導

 というように始めは重心の位置関係も利用しながら舌の可動域を広げていき、可動域の変化にあわせながら重心の位置とは分離した舌の動きも引き出していきます。

 このような動的な口腔トレーニングは座位や腹臥位でも行います。特に最近、小児歯科医院での口腔トレーニングを行うときは腹臥位で口腔トレーニングを行うことが増えました。中には腹臥位ではなく、立位で口腔トレーニングを行った方がよい場合もあります。

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毎月恒例の助産師 古賀ひとみさんと小児歯科訪問

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腹臥位での口腔トレーニング(この姿勢で眼球運動の評価、アプローチも行います)。

 重心の誘導と合わせて舌の徒手的誘導を行うので、「同時に複数を意識しないといけない部分」と「セラピスト自身の動的な身体のコントロールが必要」なぶん、難易度はかなり高いですが、とても応用の効くアプローチなので、口腔研修②~③でも練習していきます。

 安静時の舌の位置は上顎に舌先だけでなく、舌中央以外がピタっとついている(上顎に舌がぶら下がっているような)感じですが、人によっては舌が口腔底に降りていたり、舌尖のみ上顎に接していたりと異なります。

 安静時のポジションだけでなく、重心の移動に対する舌のバランス戦略も人によって異なり、もちろん口を開ける、発音する、咀嚼するといった口腔の関わる活動の時の舌の戦略も人によってことなります。

 日ごろ、皆さんが当たり前に行っている日常生活動作において、口腔内の舌がどのように動いているのか意識してみると面白い発見があるかもしれません。

まとめ

・舌と重心の移動には関係があります。

・ただし重心の移動に舌がどの様に反応するかは

 良くも悪くも人によって異なります。

・折角、関係があるのだったら口腔の訓練にも活かしましょう。

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