舌のトレーニング
舌のトレーニングというと自分で随意的に舌を動かすトレーニングや、言語聴覚士の方は濡れたガーゼで舌を包んでストレッチしたり、舌圧子で抵抗運動を行ったりもしているでしょう。
舌も筋肉です。上肢や下肢などの筋力トレーニングと同様に、舌の「楽に動ける運動範囲」や「筋出力」を超えるトレーニングを行おうとすると、力み、舌以外の筋も動員した代償運動がみられます。
理想は舌単独の機能を高めたいため、特に舌のトレーニング時における「代償運動」は見逃してはいけません。代償運動を見逃して、間違った難易度設定でのトレーニングを行うと、本来の動きとは異なる戦略で口腔顔面の筋を活動時に動員するようになるので、その修正に時間を要します。
舌のトレーニング時の代償運動
先日、代償運動について書かれてある書籍を読んでいて疑問に思ったことがあります。それは舌の運動時の代償運動について全く書かれていないことです。たとえば舌をべーと前に出す(提舌)という単純な運動の際にも、様々な代償運動(工夫)が見られます。
・口唇に力をいれて舌を前にだす。
・目の周囲に力がはいる。
・肩に力がはいる。
・下顎で頑張っている。
どんな部位で過剰に力を入れ、舌を前に出しているかは人によってほんとに様々です。一人一人丁寧に評価すると、「どのような戦略で舌を動かしているかは健常者であっても人によって違う」という事が見えてきます。
例えば、舌を前に出すたびに口唇に力を入れていた場合、それは口唇の代償運動のトレーニングになっているかもしれません。そのような代償運動を見逃し、「頑張って!もっと前に出して!」とセラピストが声かけを行うと、もしかしたら
力の入りやすい口唇の緊張をさらに高めて
頑張ろうとするかもしれません。
口唇のように、明らかに見てわかる代償は気付きやすいのですが、中には口腔トレーニングのさいに、無意識に足の指をまげて頑張っている方もいらっしゃいます。
口腔トレーニングの際は「どこで頑張ってその運動を行おうとしている」のかは常に評価する必要があります。
出来ている、出来ていないという評価も大事ですが、
もう一歩進んで「目的とする運動を行っている時の動きの質」にも目を向けることが大切です。
感じて、反応できる。
さて以前の記事では舌の可動域を引きだすさいのコツとして「押さない、引っ張らない、頑張らせない」とお伝えしました。とくに最後の「頑張らせない」というのは、人によって「どこで頑張るか」が異なることからも注意が必要です。
特に活動時の力みに関して、
・どこで頑張りやすいのか
・どの運動方向にがんばりやすいのか
といったことを事前に抑えておくと、今行っている課題の難易度が高すぎないか気付くきっかけにもなります。前回の、得意な運動方向、苦手な運動方向の評価とも関連してくるところです。
http://site-1363555-8827-3743.strikingly.com/blog/38858ec165c
さて特に摂食嚥下における舌の大切な機能は「食べ物を知覚し、無意識に目的(咀嚼、嚥下)に応じた動きが行える」ことです。
味や温度、質感を感じるだけでは嚥下はできません。感じたうえで口腔内の筋が協調的に動く必要があります。特に舌は咀嚼のために食物を振り分けたり、嚥下のために咽頭へ送ったりと、常に動き続けています。
そんな舌のトレーニングにおいて、僕が大切にしているもう一つの視点は
①知覚 → ②反応できる(動ける)
という2つの機能を本来の流れ(知覚→運動)に則り、なるべく代償運動を出さずに間接訓練でもトレーニングすることにあります。
単純な口腔の運動練習では「知覚」の部分が抜けてしまいます。知覚し、反応するという一連の機能を引きだしていく必要があります。
身体は無意識に刺激の変化に気付き、反応する機能を有しています。口腔内はとても繊細で、本来は食べ物の質感、量、動きなどに合わせて口腔内の動きを変化させていくとができます。
しかし場合によっては口腔内に何らかの刺激(食べ物など)が入っても、舌が動かない、嚥下反射も起こらないということもあると思います。しっかり刺激に対して反応できるように、知覚→反応のプロセスを意識した口腔トレーニングを行いましょう。
それでは皆さんが日ごろ行う口腔トレーニングを「知覚」と「運動」に分類してみましょう。どちらかに偏っていないでしょうか。もし偏っていた場合は、もう片方の機能を引きだすトレーニングも行うと、いつもと違った変化が見られるかもしれません。
口腔研修(S-R touch Oral)では「知覚」と「運動」両方の機能を同時に効率よく引き出すトレーニング法について実技を中心に実践していきます。痛みなく、自分の舌の可動域が変化していくのを一緒に体感しましょう。
http://site-1363555-8827-3743.strikingly.com/#s-r-touch-oral
❀ 今回のポイント ❀
・口腔のトレーニング時の代償運動を見逃さない。
・舌のトレーニングにおいては「知覚」「運動」両方の機能を引きだすことが大切。