これまでのおさらい
舌のトレーニング指導を行うとき、
① 代償運動を見逃さない。
② 知覚と運動 両方の機能をトレーニング。
この二つのことについて以前の記事では書きました。
(参考記事:http://site-1363555-8827-3743.strikingly.com/blog/eeabb6184a9)
口腔機能の訓練を行うとき、下顎の代償については評価し、代償運動がでないように気をつけていると思いますが、舌などのトレーニング時における代償運動は下顎だけではありません。
セラピストの提示した課題に対して、その難易度が高かった場合、全身の筋を使って工夫しながら舌を動かすため、なるべく広い視点で評価し、代償運動がより少ない難易度の課題へ調整する必要があります。
また課題を行うまえに、食べる、話すといった活動レベルの評価、機能レベルの評価を行うと思いますが、一般的な口腔の評価に加えて「運動方向」という視点での評価を行うことの必要性についてもふれました。
(参考記事:http://site-1363555-8827-3743.strikingly.com/blog/f550264cdc5)
外舌筋と内舌筋
舌のトレーニング前後に舌の可動域の評価を行いますが、まず今回は一般的に行われている舌の可動域の評価について掘り下げます。
舌は大きく2種類の筋にわけられます。
・舌の位置をコントロールする外舌筋
・舌の形をコントロールする内舌筋
たとえば提舌のさい、「舌の動く範囲」に注目すると、主に舌の位置をコントロールする外舌筋の機能もみれますし、舌の位置をコントロールするときの「舌の形」に注目すると舌を移動するときの内舌筋への影響も評価できます。
舌の位置のコントロール、舌の形のコントロール。これらは食べること、話すこと両方の機能にとって重要な舌の機能となります。
想いを伝えたい、美味しいものを食べたい。そういった目標とする活動に合わせて、舌は移動し、さらに舌の形も常に変化させることができます。
しかし、提舌のように舌の位置をコントロールしたとき、舌の形まで意図せず変化する状態では、その時の目標とする活動に合わせた舌の形のコントロールは難しいことが予測されます。
たとえば、上肢をゆっくりと天井に向けてあげていきます。このとき手首から先はどうなっているでしょう。人によっては手首から先の筋緊張を維持できず、手がダランとなっている方がいます。体の位置の変化に対して、末端の筋緊張を維持するのは簡単そうに見えて難しいです。
似たような現象は舌でもありまして、提舌のさい、末端の舌尖の緊張が低いと、舌尖が下の歯に引っ掛かり、歯を乗り越えるようにして前へと出てきます。
舌の形(内舌筋の緊張)を維持した状態で舌の位置をコントロールできているか。AMSDなどの評価では数値としては反映されない評価になりますが、ぜひ特記として残しておきたいところになります。
舌の可動域の評価時、舌の形も意識して評価できると、その後の訓練の難易度調整の参考にもなりますし、数値では見えない口腔機能の改善の過程が見えてくると思います。
舌が楽に動ける範囲
さて、舌の位置をコントロールする外舌筋の話をしましたが、一般的な舌の可動域は舌が動ける最大可動域をさしていると思います。
どれだけ前後、左右、上下(下も大事です)に舌が動けるかを評価します。
舌の可動域といっても、多くは様々な代償運動がはいるため、たとえば下顎の代償はバイトブロックなどを用いて抑制し、なるべく舌単独の可動域を評価していると思います。
しかし舌の動きをセラピストが丁寧に指で誘導してみると、下顎以外の様々な代償運動に気付くことができます。
口唇、眼の周囲、肩などに力が入ったり、頚椎の側屈や重心移動が見られる場合もあります。
これらの代償運動は何も脳血管疾患などの診断を受けた方だけでなく、この記事を読んでいる皆さんを含め、殆どの健常者の方にもみられる舌運動時の代償運動です。
それだけ健常者であっても、いろんな身体部位を使って工夫しながら舌を動かしているのです。舌を動かすための戦略が1種類であったならば、その手段が使えなくなった途端、口腔が関わるあらゆる活動に支障をきたす可能性があります。
いろんな戦略で代償(工夫)できるというのはとても効率がよいです。
若い方含めて、舌の運動時には様々な身体部位で代償しながら舌を動かしているのですが、仮にその舌の動きにくさを補っているかもしれない筋が、何かしらの理由で筋力低下や麻痺などになると、舌の動きへの影響は大きいのではないだろうかと考えています。
何かしらの理由というのは、病気の場合もありますし、低栄養もあるでしょう。もしくはホルモンバランスが変化するとき、妊娠や出産、その後の睡眠不足なども複数影響してくるかもしれません。
40代、50代になってムセはじめた方。それはホントに年齢のせいなのでしょうか。
小さいとき、自分で意識的にか無意識的にか頑張って工夫して獲得したお口の使い方。ほんとに人によって舌の動かし方は驚くほど異なります。
新しい工夫の仕方をしている子や大人の方に出会ったときは心から「おもしろい、すごい」と思います(たぶん思うだけでなく言ってます)。
教科書や論文に書いてある「正しい口の使い方」とは違うかもしれませんが、その人が編み出した素敵な工夫。それは否定する必要はなく、一緒に「すごいね」って気付いて、その背景を一緒に考え、「こんな使い方もあるよ」って提案(言葉、視覚、ハンドリング)してみて、その人が「これから」を選択できたらと思います。
まとめ
・舌の評価のさい、舌の可動域とあわせて形の変化もみてみましょう。
・舌運動時は健常者であっても様々な身体部位で代償(工夫)しています。
・まずはセラピスト自身の工夫に気付けたらいいなと思います。
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